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Guest 北海道を訪れた今を輝くゲストのスペシャルインタビュー


ミュージシャン【忘れらんねえよ】


昨年の札幌初ライブ以降、誰もが親しみやすい王道ナンバーと圧倒的なパフォーマンスでファンを魅了し、さらに勢いを増し続ける〈忘れらんねえよ〉が、今年10月に約1年半ぶりとなる待望の2ndアルバム『空を見上げても空しかねえよ』をリリース。捨て曲一切無しで真剣勝負に臨む、彼らの本気と熱量を余すところなく収めた今作は、これから進む方向性を明確に示し、さらなる可能性を期待させる、バンドの歴史を語る上で大きな礎として刻まれる最高傑作となった。悩み、苦しみ、もがき、傷つきながらも、ただがむしゃらに走り続ける彼らが、きっと起してくれると信じてやまない奇跡の瞬間を、またこの目で見届けたくて、だから今日もこのアルバムを聴いて、好きな歌詞を口ずさむ。





インタビュー(December,2013)
柴田 隆浩 / 〈忘れらんねえよ〉(Vo&Gt)


>前回お会いしたのが今年3月頃ですが、この数ヶ月でとりまく環境や状況が大きく変化されたのでは?

柴田:変わりましたね。お客さんからの俺達の見え方も変わったと思いますし。バンドを信頼してくれてる人が爆発的に増えたのと、なんか面白そうだなって興味を持ってくれている人も増えた感じがします。特に札幌は、今すごく良い感じでお客さんとの信頼関係が作れていて。最初にきっかけを作れた【夢チカ】と、次に出させてもらった【IMPACT!】で良いライブができたんですけど、それが【JOIN ALIVE】につながって。

>【JOIN ALIVE】では奇跡的なパフォーマンスで会場を巻き込み、最後はオーディエンスで埋め尽くされました。
柴田:札幌でのライブはかなり良いライブができてたんですけど、【JOIN ALIVE】ではMCも含めて手応えは超ありました。かなり満足のいく笑いが取れたから、あれでもうスイッチ入りました。「…いける、今日!」って。良いMCができると力が抜けるんですよね。変な力が抜けて、演奏もどんどん良くなって、それがお客さんに伝わって、熱量のぶつかり合いですごい所まで登り詰めていけた気がするんですけど、それも、俺達のバンドの象徴だと思うんですよね。バンド名が妙ちくりんっていうのもあるし、いわゆる青春パンクの残り香みたいなところでデビューしたのもあって、どうしてもイメージが付いてしまっているんですけど、実際聴いてもらったら絶対にそこを裏切る、説得できる自信があって。自分達のみっともないところも全部さらけ出して、それに共感してお客さんがどんどん増えてくれたと思うので、そういう意味でも俺達らしいライブができました。

>トークの重要度が高いですね、曲じゃなくて(笑)。
柴田:大事なんですよ。最初のSEが鳴ってから、「またね!」ってステージを去るまでが表現だから、MCはかなり重要なんですよね。その出来次第で演奏の質も変わってくるんですよ。〈キュウソネコカミ〉っていうバンドが好きなんですけど、その人達もMCとかでちゃんと笑かして心の壁を取り払うんですよね。笑かして、その後に曲をボーンとブチ込むみたいな。それほど気にしてないバンドもいるとは思うんですけど、俺達はすごく大事にしてます。やっぱりお客さんとのコミュニケーションだから。

>今年10月にはセカンドアルバム『空を見上げても空しかねえよ』がリリースになりましたが、粒揃いで一曲一曲の完成度が高いです。
柴田:本当におっしゃる通りで、シングルの集合体にしたかったんですよ。もちろん、アルバム全体としてストーリーも組んでいるし、曲順にもこだわってるんですけど、でも一曲一曲単体でマジでぐっとくるメロディー、ぐっとくる言葉、ぐっとくるサウンドで、ピンで立っても成立するものっていうのは超意識しました。あと、流れの中に置くと、さらに別の輝きを持てるような曲になってます。

>ライブですでに披露されていた曲もありますが、随時作られていた?
柴田:随分前から曲だけあったものもあるし、アルバムを作っていく中でこういう曲が欲しいなって思って作った曲もあるし、あとは俺の中でボツになっていた曲で、今回プロデューサーで入ってもらったアイゴン(會田茂一)さんの力で大化けした曲。その3つの組み合わせですね。

>その大化けした曲というのは?
柴田:一曲目の「バンドワゴン」がそうで、俺はこれが一番好きなんですけど。音楽的なところで言うと、Aメロ・サビ・間奏の構造がずっと連なっている曲で、Aメロもサビも間奏も全部同じコードで始まりつつ、その先の展開が違う構造になってるんですよ。それって俺の中では下手くそが作る曲で、駄目だって左脳的に決めつけてたんです。けど、アイゴンさんとレコーディングをしていた時に、どうしてもあと一曲足りなくて。そういえば、確かこの間ボツった曲があったから、とりあえず時間稼ぎにそれでお茶濁して、その間に作ろうと思って出したら、意外にもアイゴンさんが気に入ってもらえて。いざそのミックスを聴いたら「え?マジで良くね?」って感じで、化けたんです!で、その時に歌詞がばーっと降りてきて。それから歌を録って、歌も混ぜたミックスを聴いた時に「…これはヤバい!」っていう。ボツ曲がアルバムの中で一番大きな曲になりました。

>自分達では気がつかないこともあるんですね。
柴田:アイゴンさんがプロデュースしてくれるって決まるかなり前に出来た曲で、バンドでも一回くらい合わせたことがあるくらいだったんですけど、「こういうの多分違うわ」ってボツってたんですよ。だから、歌詞もめちゃくちゃ気に入ってるんですけど、こういう歌詞が乗るなんて思ってもみなかったです。本当に授かり物というか、会心の一撃みたいな。たまたま自分の攻撃力の2倍くらい出たみたいな。

>歌詞の世界観まで浮かんできたのが面白いです。
柴田:不思議なんですけど、オケを聴いてる時に、曲が明らかに世界を持ってたんです。メンバーと夜の東名高速道路をひたすら走っていて、車内ではみんな黙っていて。でかいステージに向かって、いつか辿り着くんだって信じて頑張っているみたいな、そんな世界で。全然そんなつもりでメロディ書いたんじゃないんですけど、持ってたんですよね、その曲が。

>「夜間飛行」は今作のリード曲にもなっています。
柴田:「夜間飛行」はすごい自信作なんですけど、そこにタイアップのお話を頂いて。メロディー自体は先にあって、それを先方が気に入ってくださって決まったんですよ。歌詞は完全にそっちに寄せる必要はないけど、あまりにも離れてるのは駄目だよっていう話があらかじめあって、その時に今まで届かなかったような人達にも届く曲になるから勝負だと思って。みんなが好きになる歌詞を書かなきゃとか、もっと汚いことを言うと、売れる歌詞を書かなきゃみたいなことを考えたんですよ。そうなったら全然書けなくなっちゃって。今までそんなこと書けたことがないから。下ネタを散々言ってた奴が、そんなみんなが好きな歌詞なんて書けるわけないじゃないですか!で、完全に煮詰まって、歌録り当日まで歌詞が書けなくて。レコーディングのスタジオ行って、みんなに「…すみません、歌詞無いです」って謝ったら、「あと3時間やるから書け…!」って言われて。で、その場で書いたんです。ひとりでレコーディングスタジオのコントロールルームに軟禁されて、壁の向こうにはスタッフとメンバーを待たせてるわけですよ、しかもアイゴンさんを!マジでヤバイくらい追いつめられて…。極限状態の中で、オケはもう録ってたから、ひたすら爆音でリピートして聴いてたら、だんだんいわゆる左脳的思考というか、みんなが好きなものみたいなのがどんどん消えていって、曲の中に風景が見えてきて。あとはその世界を表すような言葉を探していってたらばーっと書けたんです。

>「中年かまってちゃん」と「青年かまってちゃん」のタイトルは、〈神聖かまってちゃん〉にうまく絡もうとしている?
柴田:〈神聖かまってちゃん〉は好きです(笑)。タイトルは後づけなんですよ。歌詞を書き上げた後にタイトルをどうしようか考えていて、この曲は俺の想いをそのまま歌ってるんですけど、「こういうことを言う奴って本当、中年かまってちゃんだよな」ってパッと浮かんで。そのタイトルを文字で書いた時の感じも面白いなと思って。結構狙って付けてます。

>ちょいちょい狙ったりしますよね。
柴田:します(笑)。そこは、今も強く思ってるんですけど。例えば、「僕らパンクロックで生きて行くんだ」は、マジで何も狙ってないんですよ。もう本当に、俺が思ったことをただ書いていったっていう。「この高鳴りをなんと呼ぶ」もわりとそういう感じなんですけど、「中年かまってちゃん」は相当狙っていて。でも、みんなが好きそうな感じの言葉を置いていくというよりは、みんなの性感帯を俺なりのフォームでくすぐるみたいな、そんな感じですね。「求められてるものはこれですか?」じゃなくて、俺達にしかできないやり方で相手のツボを突くみたいな。

>なんとなく、童貞らしからぬ発言ですね。
柴田:バンドとして童貞を捨てたんじゃないですかね(笑)。

>いつの間に…!
柴田:バンドとしてね、バンドとして(笑)。バンドとして「この高鳴りをなんと呼ぶ」って、ファーストアルバムを出してから、次の一枚目のシングルなんですけど、やっぱりそれで童貞を捨てたんだと思う。

>「この高鳴りをなんと呼ぶ」は、バンドにとって大きな転機となった曲ですね。
柴田:そうですね。この曲を出して、世の中と初めてコミュニケーションが取れたんですよ。みんなが好きって言ってくれる歌を何でかわからないけど出せて、それで野望を持ったというか、その喜びを知ったんですよね。自分達が良いと思っている音楽を、受け入れてもらえることの嬉しさとか快感を。こんな嬉しいんだ、こんな救われた気持ちになるんだって。だから、そこをどんどん追求したいし、ひとりでも多ければ多いほど嬉しいし。次に出した「僕らパンクロックで生きて行くんだ」は、良い意味でも悪い意味でも、いろんなことを教えてくれた曲で。俺達のやってることは間違ってなかったんだなって実感できるし、ライブ自体も絶対これで締まるんですよね。でも、自分が純粋だと思える音楽を作るだけじゃ、認めてもらえないことに気が付いたんですよ。

>純粋に音楽を追求はされている一方で、大人のしたたかさも感じます。
柴田:あります。そこはあって良いと思うんですよね。例えば、今回「戦う時はひとりだ」っていう曲が2曲目に入っていて、Aメロとかで引っかかるような言葉を置いてるんですけど、「俺はつきまとった やってしまった」って、みんなが好きな所ですよ。クスッて笑っちゃうようなフックを置いて、サビで「戦う時はひとりだ 生きてく時はひとりだ」とか、「歯向かう君はきれいだ 逆らう君はきれいだ」とか、本当に伝えたいでかいことを言うみたいな。コアの部分は別にブレちゃいないし、結局俺がやりたいことをやるって意味では変わんないんですけど、そういう意味では戦略的に…性格もあると思うんですけど、なるべきだと思ってますね。無視されたくないですもん(笑)。もう人生をバンドに突っ込んでいて、眠れなくなる時もあって。そこまでやっているんだったら、聴いてもらうために、一体どこまでやれるのかを突き詰めたいんですよね。

>今作をリリースされて、手応えはいかがですか?
柴田:全力で走っていたというか、「やりきった!」っていう充実感はあるし、手応えはあるんですよ。でもそれ以上に、「もっと…もっと!」っていう思いが強くて。理想は1億2千万枚売れることだから、どうやったってもどかしいですよね。だって、今回は本当に自信作だし、良いですもん!聴いてくれたら絶対に好きって言ってくれる人がいるはずなのに、俺達の力不足でその人達にまだ届けられてない現実が確実にあって。ありがたいことに、手に取って聴いてくれたお客さんとかから、ツイッターとかで感想とかもらうし、つぶやいてくれてたりしてくれて、そういう意味では満足はしてるんですけど…いや、満足してるっていうのは嘘だな。やっぱり、「まだまだこんなもんじゃねえ!」という想いは強くありますね。

>バンドとして大きくなりたい?それとも、表現を追求されている?
柴田:どっちもですね。良い曲を作りたいし、作った以上はそれをちゃんとみんなに良いって言ってもらいたいですね。でも、逆もあるかも。みんなに「このバンドは良いんだぜ!」っていうことを知ってもらいたいがために、じゃあそこにぐっと刺さるような曲を俺達なりのフォームで作りたいっていうのもあるし。表裏一体ですね。

>バンドとしての一体感が伝わってきます。
柴田:バンドの健康状態はすごい良いですよ。ファーストを出した頃は、具体的に言うと技術が無かったんですよ。音楽的な筋肉が全然無くて、グルーヴが無かったし、ライブパフォーマンスとしてもぬるいというか、嘘くさいところがあったんですよね。けど、一年半でいろんな現場で戦ってきて、俺達のバンドのグルーヴをようやく見つけることができて。ライブのパフォーマンスとかセットリストの構成も含めて、俺達の戦い方だったり、お客さんとの向き合い方みたいなものがわかったから、あとはそこを追求していきたいですね。今、自分達で演奏してて超楽しいですもん!ノリが良くなってる時って超気持ち良いし、超楽しくて。それはファーストの時には無かった感覚ですね。

>今作はバンドの方向性が道標のように、明確に示されているように感じます。
柴田:そうですね。ファーストの時は完全に内向きだったと思うんですよ。その頃は歌詞で自分のことしか歌ってないんですよ。自分のグチだったり、自分がどうしても言いたいことを歌っていたんですよ。でも、セカンドは外に向いてるというか、目の前にお客さんがいるんですよ。その人達に向かって、「どうよ?」って投げかけてる。自分のことを歌うより、俺達なりのやり方でその人達を喜ばせたいって思うようになったんです。だから、もっと届いて欲しいんですよね。届いて欲しいというか、必ず届くと思っているから、今は聴いてもらうための努力をしたいです。

>バンドとして王道なんですけど、意外といそうでいなかった存在です。
柴田:意外といないんですけど、逆に言うと、ぶっちゃけ流行ってるタイプのリズムなり音じゃないなとは思います。いろんな考えがあると思うけど…今、機能性のあるメロディーだったり、言葉だったりが特に若い人達は好きなのかなっていうのはあるんですよ。サビが四つ打ちで、すごく覚えやすいノリで覚えやすい言葉で、そこに深い意味とかそんなに求めないっていう。それはそれですごく才能が必要だし、格好良いなとは思うんですけど、俺達としてはちょっと違うんですよね。それもジャンケンだと思うんですけど、俺達はこれしか出せないから。芯の部分はブレないものが出来たから、それをちゃんと世の中に提示していって、チャンスを待つってことだとは思うんですけど。でも、多少の世の中との兼ね合いというか、バランスの取り方は何となく意識してもいいのかもなというのは、最近ちょっと思ってます。

>ファーストに比べて、ジャケが格好良くなっています。
柴田:まあでも、比較すると格好良く見えるだけで、普通に見ると超気持ち悪いですけどね、顔が…(笑)。でも、良いジャケが作れたなと思ってます。俺達らしいというか。こんなきたない顔を前面に押し出しているんですけど、逆に言うとそれが俺達じゃん!って。必死こいて演奏してるきたない顔で、クスッて笑っちゃうけど、どっか信頼できるみたいな。それは何故なら、本気でやってるから。それって俺達が一番得意とする顔なんですよね。

>〈BEAMS〉とコラボされるなど、近頃さりげなくシャレオツ感を醸し出してますね。
柴田:出してきてますね。ファッションセンスが高まってます(笑)。そこは、『ROCKIN’ON JAPAN』を見てたんですよ。パラパラめくってて、俺達のページが出てきた瞬間、「…うわ、ダセえ!」って思っちゃったんですよ。「コミックバンドじゃねえか!」って。別にコミックバンドを否定するわけでは決してなくて、俺がやりたいのはコミックバンドじゃないし、あと一番嫌だったのが、やってる音楽が舐められるなって思ったんですよ。だから格好は変えないといけないっていうのは痛感しました。

>実際、そろそろモテてきているのでは?
柴田:無い、無い!相変わらず霊みたいに全く無い…(笑)。だから、まだまだってことなんだと思います。グラサンを掛けてきどってみたりもしたいですけど、そこら辺に変な期待もしてないですね。

>年齢的な焦りやプレッシャーも感じている?
柴田:やっぱりありますよ。自分達と友達のバンドの違いとか差だったりもすごく気になるし。良い悪いも含めて、まだまだわかってないことはいっぱいあって、逆に若い頃はわからなかったことも少しづつわかるようになってきたりもしてますけど、もういい歳だから変な夢を見ていないというか。夢は見てるんだけど、何となくわかるじゃないですか、自分のバンドの位置がどんなもんかって。そこに幻想は無いですよね。じゃあ、自分達を変えていくにはどうしていけばいいのかってことは常に考えながら動いています。音楽を続けていくことも、エゴサーチもたまにしんどくなりますけど…(笑)、でも俺には音楽しかないんですよね。



2ndアルバム『空を見上げても空しかねえよ』
VPCC-81780 / ¥2,500-(tax in)



〈忘れらんねえよ〉
2008年結成。メンバーは、柴田隆浩(Vo&Gt)、梅津拓也(Ba)、酒田耕慈(Dr)の3人。2010年、〈rockin’on〉の新人コンテスト【RO69JACK09/10】で入賞。2011年8月、1stシングル「Cから始まるABC」をリリース。2012年3月、1stアルバム『忘れらんねえよ』をリリース。2013年1月、會田茂一プロデュースによる3rdシングル「この高鳴りをなんと呼ぶ」を、6月には4thシングル「僕らパンクロックで生きていくんだ」をリリース。春から夏にかけて【ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013】や【JOIN ALIVE 2013】など、音楽フェスティバルに出演。10月、2ndアルバム『空を見上げても空しかねえよ』をリリース。
オフィシャルサイト:http://www.office-augusta.com/wasureranneyo/



text:Pilot Publishing / photo:Hideki Akita(TOOTOOTOO studio)
December,2013




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