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Guest 北海道を訪れた今を輝くゲストのスペシャルインタビュー


ミュージシャン【忘れらんねえよ】柴田隆浩


柴田、泣く。
そして、不安と迷いを語る。


今年6月に1stミニアルバム『あの娘のメルアドを予想する』をリリースし、〈忘れらんねえよ〉は今、バンドとして大きな局面を迎えている。今回、柴田隆浩は深い傷を負い、トラウマのごとく闇を抱えながら、勇気と覚悟をもって、その胸の内にある不安や迷いを隠すことなく、素直にさらけだしてくれた。そして、彼らは今日も変わることなく、ステージの上で持てるすべてをぶつけ、ただ懸命に、がむしゃらに叫び続ける。誰もが一度は負ける悔しさを刻み、その胸に秘めた想いや感情を代弁してくれているからこそ、彼らの曲はこんなにも心の空白を揺さぶるのかもしれない。

ススキノの屋上ビアガーデンでひとり、ビールをちびちび舐めまわしながら、風俗誌を隅々まで熟読する、“エロの申し子”柴田に尋ねた。




インタビュー(May,2014)
柴田 隆浩 / 忘れらんねえよ(Vo&G)


>野外フェスやワンマンをはじめ、札幌には定期的にいらっしゃっていますね。

柴田:俺らが遠征で来させてもらうと、ありがたいことに札幌はお客さんがすごく入ってくれるんですよ。これまで良いイベントに呼んでもらって、たまたま毎回会心の一撃が出せているから、お客さんが付いてきてくれているのかもしれないですね。だから来るのが楽しみだし、チャンスがあれば来たいです。それで、次は【ジョインアライブ】に続きますから。

>【ジョインアライブ】への出演が決定されましたが、意気込みを聞かせてください。昨年のステージでは、まさにフェスの奇跡が起こる瞬間を目撃できました。
柴田:去年の【ジョインアライブ】は手応えが相当あったし、今年も出たかったので決まって嬉しかったですね。去年は、お客さんも俺らの名前だけは聞いたことがあるけど、どんなもんよ?っていう人達がほとんどだったと思うんですけど、演奏中にオーディエンスがどんどん増えて、最終的には人だかりになるくらい集まってくれて。今回はハードルがさらに上がっていると思うんですけど、今はそれをちゃんと越えられる気がします。具体的にはライブのやり方も変わっているし、やれることというかパフォーマンスのレンジが広くなっていますね。去年は楽曲を演奏するのに必死だったし、MCも事前に決めてた内容をやり切るので一杯一杯だったんですけど、【ツレ伝ツアー】での対バンの中で、相手が持ってるいいところで取り入れるものは取り入れて、失敗も繰り返しながら、今はそれが板についてきたというか、楽しめるようになってきたので、今年はさらにひとつ上のステージをお観せできる自信があります。具体的に言うと、今日ここでしかやらないことをやる、事件を起こす、ということです。

>今年6月に1stミニアルバム『あの娘のメルアドを予想する』がリリースされますが、今回ミニアルバムでの形に至った経緯について聞かせてください。
柴田:いろいろあるんですけど、一番はミニアルバムありきで始めたんですよ。値段を1500円で出したいという前提で、1500円で12曲入っていたらお得だし、だったら入れれるだけ入れようと。やっぱり、今の俺らが2500円のフルアルバムを作っても広がっていかないというか、新しいお客さんは手を出しにくいと思ったんですよ。個人的にバンドには旬があって、それがデビューからだいたい2~3年くらいだと勝手に考えているんですけど、でも俺らはデビューしてもう3年くらい経っているから、とにかくヤバいという危機感があるんですよね。新しいバンドが次々に出てくるし、みんな新商品が好きじゃないですか、それはもう当然の心理なので。だから、歌詞からサウンドからジャケットからプロモーションからすべて、〈忘れらんねえよ〉はもう後が無いというところから始まっているんですよね。

>セカンドアルバムの結果を受けて、今回のミニアルバムをイメージされた?
柴田:もうひとつ象徴的だったのが、去年の【カウントダウン・ジャパン】で、2日目のステージのトリにしていただいたんですよ。〈ロッキング・オン〉さんが信頼して、頑張れよ!っていう期待も込めてくれたと思うんですけど、裏が〈グッドモーニングアメリカ〉と〈サンボマスター〉と〈バンプ・オブ・チキン〉で地獄ですよ…(笑)。それで、フタを空けてみたら、集まってくれたお客さんが会場キャパの半分くらいで…全部自分のせいなんですけど、もうね、悔しくて。ライブ自体は良いライブができたんですけど、終わった後に泣いちゃって。あまりにも自分がふがいなくて、情けなくて。だけど、後になってよくよく考えてみたら、自分がお客さんだったらやっぱり〈サンボマスター〉を観に行くよなって。だから、今回のアルバムの一番大きなテーマとして、俺らにしかできない表現をしないといけないというのがあって、それを考えた時に笑いやダサさに関しては他のバンドに負けないから、とにかく歌詞をダサくする、みっともなくする、下ネタを取り戻すところで今回は振り切っています。

>収録曲「ばかばっか」の歌詞で告知された“脱童貞”は、あえて落とし込んだ意図的なワードにも感じましたが、なぜ今のタイミングで発表されたのでしょうか?
柴田:Cメロに入っている「童貞を捨てた」っていうワードは、もともとは別歌詞を当てていたんですよ。「匿名で人を罵るようなカスにはならない」って、それが格好よくて気に入って入れていたんです。でも現状のままだと、爆発的にバンドのイメージを変える何かがないと、広がっていく気がしなかったんですよ。じゃあどうしたら良いかを必死に考えていくうちに、自分が童貞を偽装してることに思い当たって、これをプロモーションのネタに使ったら面白いんじゃないかと思い付いたんですよね。でもこのネタだけ独立されても困るから、そのプロモーションでの表現と楽曲をつなげる必要があって、Cメロにその役割を持たせたのはあります。確かに、歌の表現としてはちょっと違和感あるんですよね。曲とプロモーションをつなげるために入れている機能的な言葉というか。自分達にしかできない格好いいサウンドに、しょうもない歌詞がのっているのが、俺らのスタイルだって探り当てて、でもそれだけじゃなくてジャケットのアートワークもPVも全部やりきって、初めて俺らの表現として完成されるんです。だから、今回の“童貞偽装”も表現なんですよね。

>楽曲だけではなく、全体的に表現が幅広くなっている印象を受けます。すべてひっくるめて、トータルでひとつの作品なんですね。
柴田:自分の好きなものがちりばめられています。サウンドもひとつ改革があって、セカンドを作っている時は、自分達の中の世界だけで作っていて、それはそれで良いもの満足するものができたんですけど、広がりを考えていく中でイケてるバンドの音楽をじっくり聴いてみたんですよ。ひと通り聴いて、その上で自分達の曲を聴いて思ったのが、テンポが明らかに遅くて。そこから流行ってる音楽のBPMを全部計って、分析していって、ルールみたいなものを自分なりに発見して、それを落とし込んだのが「ばかばっか」なんですよ。だから、BPMやビートは完全に今仕様にチューンナップされています。

>笑いや下ネタの要素を強めて原点回帰されることで、賛否両論あると思われます。作品としてターニングポイントとなる、実験的な位置づけの作品なのでしょうか。
柴田:新しい始まりになるのか、全然わけわかんない問題作になってしまうのか、でもたぶんもう前には戻らない気がします。セカンドに書いていたことは決して嘘ではないし、俺の中に確実にある一面として言葉を出していたんだけど、人の中にはいろんな面があるじゃないですか。良い面もあれば、小さいこととかにもムカつく小さい自分もあるし。結局は俺が表現しているから、ベースの部分は変わらないのは間違いないんですけど、どこにドライブをかけるかなんですよね。基本的なメロディーの作り方は一切変えていないんですよ。例えば「バンドやろうぜ」はセカンドに入っていても全然おかしくないじゃないですか。俺的には今までファーストやセカンドで得てきたものを、全部捨てている感覚ではなくて、それを経て全部ごちゃ混ぜにして新しいものを作ったというか。〈忘れらんねえよ〉をいったん分解して、また作り直して、果たしてどうなのかを問いかけている感じですね。賛否が出るのはしょうがない、それも覚悟の上ですから。

>制作を終えて、ご自身での手応えはいかがですか?
柴田:やりきりましたね。これは間違いないという理想像が作れたから、絶対イケる自信はあって。“童貞偽装”を初めて世に打ち出したとき、リツイートもかなりあって、その一瞬は救われたんですよ。よし!って思ったけど、3日後に思ったよりPVの再生回数が伸びないなって落ちるみたいな(笑)。

>数字にとても敏感ですが(笑)、マーケティングや戦略などが曲作りに反映されることもありますか?
柴田:それで売れ線の曲を作るという発想にはならなくて、たぶん自分の現実を見るために、数字を使っている感じですかね。売れたいからやりたくないことでもやる、ということには絶対にならない。そんなことやっても売れないと思いますし。じゃあ、もっと表現を尖らせないといけないっていう考え方。でも、どんなに作戦を立てようとも、こればっかりは世の中に出してみないとわかりませんから。どのバンドもみんな、いろいろ考えていると思いますよ。やっぱり、それ無しに勝てるような世の中じゃない気がするんですよね。

>昨年のセカンドアルバムのリリースとフェスでの経験が、バンドにとってとても大きな出来事だったようですね。表現や考え方も大きく変わった印象を受けます。
柴田:でかかったっすよ!別に売れていないわけじゃないんですけど、自分が想い描いたよりセールスがいかなかったので、こういう話をすると「全然イケてますよ」って言ってもらえるんですけど、俺的には全然まだまだなんですよ。セカンドはその時点で後悔も一切なくて、完璧だって言い切れるものだったし、それがあっての【カウントダウン・ジャパン】なんですけど、全部が地続きじゃないですか。リリースの時点でバーンと跳ねてたら、絶対に人も集まっていますよ。そこは、必要以上にナイーブになっているかもしれませんけど、でも俺的には正しく現実を知ることができました。今はそこから這い上がって、新しい武器でまた戦いを挑もうとしている感じですね。

>フロントマンとしてメンバーからの信頼も厚いですが、梅津さんと酒田さんの反応はいかがでしたか?
柴田:メンバーもこれまでと違うことを何かやらなきゃいけないという空気はあったから、今は信じてのっかってくれている感じですね。でも、揉めたりもしますよ。ベースの梅津くんが、熊本でライブやった後の打ち上げでいきなり激ギレして、怒鳴り合いになったりとか。梅津くんは馬鹿をやりきるということには理解があるし、酒田はもともとバカだから全然問題ないんですけど(笑)。でも全部が全部、梅津くんや酒田の本当にやりたいことかっていったら、それはたぶん違うと思います。でも、バンドって協議制じゃないし、やっぱりひとりのエゴだと思う。そこは良い意味でも悪い意味でも、俺は人の意見は聞かない。基本は俺が決めます。その分誰よりも努力して、責任はすべて俺が取るからって。それをふたりが役割分担としてすごく理解してくれています。

>バンドとして進むべき方向性や可能性を、今もまだ探っている段階なのでしょうか?
柴田:少なくとも、同じことをやりたくないなっていうのはあります。新しいことをやってみんながわっと驚くようなことをしたいのはあるし、なにより俺らだけの表現スタイルを見つけたいんです。音楽ありきのところはできているんだけど、そこに俺らなりのエッセンスはどうやって入れられるのかを試しているというか。自分でこの方向性は誰かとかぶっていると感じたら、それはやりたくないし。そもそもバンドやろうと決めたきっかけって、基本的にはバンドマンみんな同じだと思うんですけど、人と違うことを表現したいとか、そういう発想で始めていたりするので、作った瞬間は人と違うものを作れたと確信しているんですよね。でも、それも結局は世の中の人が判断することじゃないですか。セカンドは本当に自信があったから、ブラッシュアップの余地がまったく無いし、じゃあそれがだめだったら、次はそれをさらに越えた今まで見たことのないものを作りたいです。

>率直に伺いますが、今作は表現としてご自身が本当にやりたいことなのでしょうか?
柴田:そうですね。だから、曲やプロモーションに関してもすべてやりきれていて、自分の理想のスタイルです。でも、わからないから可能性があるのかもしれないですね。毎回なんですけど、今回は特に博打感覚が強い。俺は自分達にしかできない、他のどのバンドにも似てない表現ができたと思っていますけど、それを決めるのも世の中じゃないですか。数字がいかなかったらイマイチってことだし、他のバンドの方が良いとか、そもそもそんなバンドいらないって話かもしれないし。今感じているのは、世の中にガチで真剣に対峙するというのは、そういうことなんじゃないかなって気がしていて。どうやったって不安になるし、わかりっこないから。

>表現とセールスを結びつけるのはとても難しいと思いますが、柴田さんの成功とは何をもって果たされるのでしょうか?
柴田:俺が言う「売れたい」というのは、自分のプライドなんです。本当に格好つけでもなんでもなくて、別に大金を稼ぎたいわけじゃない、暮らしていけさえできればいいから。俺的には、自分の才能はたくさんの人に届くと信じているんですよ。でも、現実はまったく結果が伴っていないじゃないですか。そこが俺はひどくモヤモヤしているんですよ。すっきりしないというか。しかも、俺らが今の状態ですごい名曲を書いたとしても跳ねれなくて、俺らはまだその空気さえも作れていないんですよ。だから、まずは今回のリリースでうまくいけばその空気を作れるから、その上でもっとやりたいことに挑戦していきたいんですよね。



メジャー1stミニアルバム『あの娘のメルアド予想する』
VPCC-81802 / ¥1,500(tax out)



JOIN ALIVE
出演:2014年7月19日(土)
ステージ:「VELVET CIRCUS」
オフィシャルサイト:http://www.joinalive.jp/



【忘れらんねえよ】
柴田隆浩(Vo&G)、梅津拓也(B)、酒田耕慈(Dr)からなるロックバンド。2008年結成。2011年4月に「CからはじまるABC」がアニメのエンディングテーマに起用され、同年8月にCD化。2012年3月に1stアルバム『忘れらんねえよ』をリリース。2013年1月には會田茂一プロデュースの3rdシングル「この高鳴りをなんと呼ぶ」、6月にシングル「僕らパンクロックで生きていくんだ」をリリース。同年春から夏にかけて【ROCK IN JAPAN FESTIVAL】や【ARABAKI ROCK FEST】など、音楽フェスティバルに精力的に出演。10月には、2ndアルバム『空を見上げても空しかねえよ』をリリース。
オフィシャルサイト:http://www.office-augusta.com/wasureranneyo/



text:Pilot Publishing
May,2014




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